「映画「ねこタクシー」応援企画!156:続々猫、介護タクシー事件!――Part57:『暗雲』P」
ねこ
今にして思えば、たかが数学のノートを見せてもらっただけなので、充分に礼をしたことになったのではないだろうか。「何かおごれ」と言われても、それを無視していれば、「あんなこと」にはならなかっただろう。そして人見優助は平凡だが、それなりに充実して幸福な人生を歩めたかも知れない。
昨年、偶然に自分の運転するタクシーに高校の時の同級生、勝倉享を乗せた。東京の外資系証券会社に勤務する勝倉は、肩で風を切るように颯爽としていた。人見には、勝倉が眩しく映った。
もし時間を戻せるのなら、あの時――陰険な数学教師の井尻の魔の手から逃れるため、隣席の油井恵理菜のノートを拝借する時まで戻りたい。恵理菜からノートを借りさえしなければ、人見は今頃、勝倉のように一流企業でそれなりのポストで働いていたかも知れない。
いや、まだターニング・ポイントと言える時がある。恵理菜から「何か高級なものをおごれ」と言われても、それを無視していれば良かったのである。
だが、根が真面目な人見は、悪戯っぽく言った油井恵理菜の言葉を真に受けていた。彼は、日曜に駅前のファースト・フード店で食事をおごると約束してしまったのだった。(Part58:『暗雲』Qへ、つづく!)
* このブログ小説は完全にフィクションであり、実際の人物・団体・事象とは一切関係ありません。
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