数日前、ラジオを聴いていたら、「音の風景」が始まった。
世界各地の様々な音を紹介する、確か5分間の番組である。
激しいほどの鳥の声が流れた。朝だ。瞬間的に察する。
場所はイタリアのベネツィア。
この町では、庭のための土地を持つのは難しい。そのため、かつての富裕層は自邸の屋上にこぞって庭園を設け、緑を愛で、眺望を楽しんだ。アルターナと呼ばれるこれらの屋上庭園は今も残っていて、鳥の声はそこで録られたものだった。
そう言われると、鳥の声の底に車の音や人間の生活音がかすかに混じっている。
それにしても、圧倒的な鳥の声である。
私の知っている日本の民家やデパートの屋上庭園では、こんな音声はまず聞けない。
鳥小屋が建ち並んでいるか、大きな樹木でも生えていないと聞き得ない音だろう。
アルターナとは、どんな空間かと考える。
おそらく、私の知っている屋上庭園とは様相が大きく異なるだろう。
想像の手がかりは実際のアルターナの音と、ナレーションの言葉しかない。
想像はいくつにも枝分かれして、明確な像を結ばない。
正直なところ、実際のアルターナがどんなものかは知りたい。ネットで検索すれば、写真や絵や、詳しい情報が手に入るに違いない。それが分かっていてなおかつ検索しないのは、現実を知れば、私はきっと必ず落胆するからだ。
現実のアルターナは、私の想像とは全くの別物である可能性が非常に高い。そして万が一、アルターナが想像のひとつと完全に同じだったとしても、それ以外の想像が否定されることで私はやっぱりがっかりする。
いつか調べるつもりだが、今はあえて調べない。
本を読む前の楽しさと同様、事実を知る前の楽しさというのも確かに存在する。
そうは言いつつ、我慢できずに国語辞典と百科事典を調べたのは秘密。
そして、載っていなかったことにわずかに落胆して、大きく安堵したのも秘密。
なお、伊和辞典にはさすがに、「見晴らし縁,望楼」という訳が載っていた。

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