聖遺物信仰、というのが御座います。これは、イエス=キリストその人であるとか、その直系の弟子となる十二使徒、果ては後世に聖人に列せられた人々の遺骨であるとか、遺品を崇拝するというスタイルで、キリスト教文化圏ではヨーロッパ、特に南部フランスと北部スペインに特徴的とされるものです。

<盗人が作った聖地:コンク>
ここコンクは聖遺物信仰の最も極端な例のひとつで、9世紀に他所から盗み出してきた聖遺物を求心力として成立したという、まさに“盗人が作った聖地”なのであります。現代の感覚からすると、何じゃそりゃ感を拭えないエピソードなのですが、どうも当時は自称修道僧が既知の聖遺物を盗んで来たり(無論、本人はそれを窃盗ではなく、奪還とかいうように正当化するワケですが)そもそも存在していなかった聖遺物を勝手にデッチ上げたりするのが普通におこなわれていたようです。あ、後者は現在も一部に受け継がれる伝統ですな。

<聖フォア修道院付属教会>
聖フォアというのは、その盗み出された聖遺物の元の持ち主の名で、トゥールーズから少し西へいったアジャンの地で殉教したとされる4世紀(!)の少女です。この聖フォア自身、信仰を捨てるように迫られ、拒んだ末に処刑されても死ななかった、という伝説が残されているように極めてデッチ上げ臭いのですが、さらに盗んで来たその聖遺物から修道院に名を頂くというのですから、確信犯的というか、盗人猛々しい、という言葉がこれほど当てはまる事例も他に御座いますまい。
ま、そういう胡散臭い話はさておき。