2015/2/28  23:31 | 投稿者: 時鳥

渋谷区立松濤美術館で、ロベール・クートラス展を見る。
今年で没後30年を迎えるフランスの画家。
キャリアのはじめは画廊と契約して絵を描いていたけれど、
途中からはまったくの一人で、誰に見せるわけでも売るわけでもない絵を
何年も何年も描き続けた。

タロットカードくらいの大きさのボール紙に油彩で描かれた「カルト」や、友人からもらったポスターの裏に描かれたグワッシュ、ストーブで焼ける粘土で作った塑像。
どれもこれも、闇の気配を濃厚に湛えている。
谷中安規の版画や、ルオーの絵や、伊藤忠太の妖怪スケッチとちょっと似た匂いがする。
日毎夜毎、心の奥底で夢想を育てる。美しい夢、怖ろしい夢、甘美な夢、醜悪な夢。
夢は重なり、混じり、醸されて、渾然一体となって世界をなす。
その世界からこぼれてくるものを描き留める。

自分の世界をどうやって差し出せばいいか、わからなかったんだろうな。
作品を見て、そう思った。
「第二のベルナール・ビュッフェ」とかいうキャッチフレーズを付けて画廊から売りだされかけたくらいだから、技術はあったのだろう。
画廊からの注文どおりにそれっぽい絵を描くこともできたのだろう。
でもそれは、この人でなくても描ける絵だったんじゃないだろうか。
自分の絵はこうではない、と、本人が思っている絵だったんじゃないだろうか。
「カルト」は、この人にしか描けない。
暗く、泥臭く、孤独で、なのに夢想に満ちている。
分かりやすく評価される絵ではないけれど、出会うべき人がこの人の絵に出合ったら、そこに自分の理解者を見出してしまいそうな、そんな絵だ。
ごく少数から熱狂的に支持される絵。高くは売れない。数多くも売れない。
多くの人に受け入れられる絵は、自分の満足が犠牲になる。
自分の満足する絵は、受け入れられない。
いいアドバイスをしてくれる人が身近にいれば、見る人の満足と画家の満足の両方の間でバランスをとる術を教えてくれたかもしれない。
しかし画家は、バランスは考えず、分かりやすさは求めず、世界の深いところまで潜ろうとした。
深さの追求はうまく行ったように見える。
その代わり、受け取れる人が限られる作品になった。
渡し方が分からなくて、理解してもらう方法が分からなくて、深く深く掘り進んだ人。
なんと不器用な人だろう。
2

2015/2/27  23:22 | 投稿者: 時鳥

迷惑メールのフォルダに、新しいメールが届いていた。
タイトルが「(メールアドレス)様、よかったらお会いできませんか?」みたいなものなので、すぐにわかる。
メールアドレスを呼びかけに使っているのなんて、迷惑メール以外では見たことがない。
嘘でもいいから、本当にいそうな日本人の名前にして、誰かから誰かに送った私信が間違って届いちゃったみたいな演出をしたほうが引っかかる率は高いんじゃないか。
とか、考えてしまう。
ものすごくプライベートなメールをしばらく送って、受け取った人が親切心から返信したら、お礼がてら、やり取りを続けさせて絡めとる、みたいな。
別に、犯罪を励行する気はないけど。
人の好意を利用した、嫌なやり方だけど。
でも、まったくの話、タイトルだけで分かるのって分かりやすくていいなと思う反面、プロとしてそれでいいのか、やる気あるのかって問い詰めたくもなるのだ。
もっと、こう、物語をさあ。いや、薦めやしないけどね。
2

2015/2/25  21:36 | 投稿者: 時鳥

検査から一週間以上経っても、まだバリウム便が排出される。
何度もトイレを詰まらせた結果、私は学習した。
トイレットペーパーを多めに取って、折りたたんで左手に持ち、
水面に落ちる前に受け止めて、バリウムの混入状況を見極め、
紙越しに粉砕してから水に落とすようにした。
これで、外出先のトイレで進退極まって周章狼狽、右往左往、
手を尽くしたあげくに、ちょっと離れたところから管理会社に電話し、
係りの男性に状況を説明して、あとで素知らぬ顔をして作業結果を
覗きにいく必要がなくなる。
あの時ほど、携帯電話にボイスチェンジャーがついていればいいのに、
と思ったことはない。

指先に力を入れて、紙の上から割ると、真っ白な粉末が中央まで
ぎっしりと詰まっていた。
周囲がコーティング程度に茶色いだけで、あとは真っ白。
空港であれば、麻薬の密輸を疑われたかもしれない。
英語で事態が説明できず、即座に拘束されて、ものは鑑定にまわされ、
バリウムだとわかるまで丸一日、犯罪者扱いをされるのだ。
そんなことになったら、困る。
しばらく海外には行かないようにしよう。
行く予定もないけど。
パスポートも期限切れだし。

少々脅えながら流す。
今回も無事流れた。
1

2015/2/24  7:40 | 投稿者: 時鳥

展覧会情報を9件追加しました。
右の「展覧会情報」リンクよりお入りください。
追加した情報は以下の通りです。


「ロベール・クートラス 夜を包む色彩 カルト、グワッシュ、テラコッタ」
渋谷区立松濤美術館(神泉)
期:2/8〜3/15 9時〜17時(月、2/23〜2/27休み)無料
※渋谷区松濤2-14-14
☆フランスの画家が発表の当てもなくひたすら描いた小品群、約150点。夜に属する生物。

「第4回デジタル・ショック リアルのファクトリー」
アンスティチュ・フランセ東京(飯田橋)
期:2/13〜3/22 11時〜19時 日〜18時(3/21休み)無料
※新宿区市谷船河原町15

「オリヴィエ・ラツィ 東京乱建築」アツコバルー(渋谷)
期:2/28〜3/29 14時〜21時 日月11時〜18時(火休み)500円(ドリンク付)
※渋谷区松濤1-29-1 渋谷クロスロードビル5F
☆都市風景の写真を断片化し、再構築する。3/27はイベントに付き観覧不可

「ロボットクリエーター高橋智隆と100Robi」
コニカミノルタプラザ ギャラリーB&C(新宿)
期:3/4〜3/30 10時半〜19時(無休)無料
※新宿区新宿3-26-11新宿高野ビル4F

「日常事変」
川口市立アートギャラリー・アトリア(川口)
期:3/14〜5/10 10時〜18時 土〜20時(月休み)300円
※川口市並木元町1-76☆参加作家は川崎義博、中崎透、クワクボリョウタ。4/22は無料公開日。

「科学開講!京大コレクションにみる教育事始」
LIXILギャラリー(京橋)
期:3/5〜5/23 10時〜18時(水休み)無料
※中央区京橋3-6-18
☆旧制第三高等学校の実験道具や標本などのコレクションを通して、日本の近代科学黎明期を見る

「岡博大 ぎんざ遊映坐 映智をよびつぐ」
LIXILギャラリー(京橋)
期:3/12〜5/23 10時〜18時(水休み)無料
※中央区京橋3-6-18
☆隈研吾設計のモバイルミニシアターで岡博大によるドキュメンタリー映画を上映。
会期中順次、続編を公開。復興プロジェクトから未来へ。

「みんなにうれしいカタチ 日本発ユニバーサルデザイン2015」
P&Pギャラリー(江戸川橋)
期:3/3〜5/24 10時〜18時(月休み)無料
※文京区水道1-3-3

「単位」
21_21 DESIGN SIGHT(六本木)
期:2/20〜5/31 11時〜20時(火休み)1000円
1

2015/2/23  22:04 | 投稿者: 時鳥

「人生はクローズアップで見れば悲劇、ロングショットで見れば喜劇」
そんな言葉を残したのは、チャーリー・チャップリンだった。
今、その言葉の通りの事態が身の上に降りかかっていて、へこんでいるのにへこみきれない。
状況を説明する言葉を頭の中で組み立てかけただけで、何やら馬鹿馬鹿しくなってきた。
本人は真剣なのだけど、これ、絶対、笑い話だ。
ずっと一人称のクローズアップを保てる人間だったら、身も世もなく嘆けるんだろうけど、あいにく、そうは出来ていなくて、笑いきれず嘆ききれない。
いくつもあるカメラの視点が勝手に切り替わって、ひとつの見方にとまってくれない。幸か不幸か。

バリウム排出に起因する精神的外傷についての挿話。
書くか書かぬか、まだ迷っている最中。
なにしろ、麗しい話ではないことは間違いないし。
1

2015/2/21  22:55 | 投稿者: 時鳥

鉄の門が飴のように捻じ曲げられて、残骸と化している。
そんな作品を見た。作ったのは、ポーランドの作家だ。
この上なく堅牢だったはずの門が、一夜にして鉄屑に変わったところを、見てしまった世代。
逆に、境界線はとうの昔に崩れてしまったのに、門だけが残されている場合もある。
境界線がなくなったことに、門番だけが気付いていない。
無効になった可能性なんか考えもしないで、いつまでも有効だと信じて、ルールを守り続けている。
誰もかも。私も含めて。
ほんとうはルールなんて、変わる時には簡単に変わってしまうものなのだけど。
3

2015/2/19  23:30 | 投稿者: 時鳥

壁一面を埋め尽くすホワイト・アルバム。
部屋の中央には長机が置かれ、ホワイト・アルバムのぎっしり詰まった箱がその上にいくつも置かれている。
箱の中のレコードは、触ってもいいし、机の端に置かれたレコードプレイヤーで聴いてもいい。

トーキョーワンダーサイト本郷で、「第8回展覧会企画公募」展を見た。
第1期と第2期で作家が入れ替わり、第1期は、1階と2階で一組ずつの展示を行っている。
1階に逢ったのがラザフォード・チャン氏の「WE BUY WHITE ALBUMS」という作品だった。
パフォーマンスと言ってもいいかもしれない。

1968年に発売されたビートルズの「ホワイト・アルバム」は、白無地一色の非常にシンプルなデザインで知られている。
この初回プレス盤だけを1000枚以上コレクションして、一室に集めた。
40年以上経った現在、ジャケットはもはや純白ではない。
手垢や書き込みや補修の跡など、それぞれのたどってきた歴史を濃厚に宿している。同じものはひとつとしてない。
白いだけに、痕跡は目立つ。
聴いてはいないけれど、レコードの音の方も、一枚一枚違うのだろう。
レコードだから、聴いた回数や傷の具合によって音は微妙に変わる。
40数年前に工場を出たときには、シリアル番号以外、何も違いはなかったはずなのに、今となってはみんながみんな、違っている。
まるで46歳の人間みたいに。

新品を壊した時は新しいもうひとつで弁済ができるけれど、
中古品を損なった場合、弁済は簡単にはいかない。
中古品には、同じものがひとつもないから。

以前、法律関係の本でそんな話を読んだことを思い出す。
本の題名も詳しい内容もおぼろげだから、細かいところは間違っているかもしれない。
でも大筋はあっているはず。
世の中には、新しいのに交換すれば済むものと、やすやすと交換できないものとがある。

トーキョーワンダーサイト本郷
「第8回展覧会企画公募」
期:1/24〜3/29 11時〜19時(月休み)
第1期:1/24〜2/22 第2期:2/28〜3/29 
※文京区本郷2-4-16
1

2015/2/18  21:05 | 投稿者: 時鳥

選択肢が5つあるなら、絶対に選びたくないものがひとつくらいは混じっているはずだ。
残り4つの中で迷いに迷って、どれかを選ぶ。
5本中の4本だから、8割。絞り込んだとはとても言えない、圧倒的多数。
選んだ結果が失敗だったら、「ほかのを選んでおけばなあ」なんて後悔するけれど、その時、頭に浮かぶのは迷った選択肢たちで、最初から度外視していた選択肢のことは思い出さない。

ひとつを選んだ先に、次の五択がある。
そしてまた、即落選の1本があって、4本の中から選ぶ。
8割かける8割は、64%だ。
電卓を叩いて、0.8を10回かけた。
0.10737という数字が出てきた。
8割を10回選ぶと、1割になる不思議。
どうしてもやりたくないことはやらない、苦手なものはよけて通る、消去法で粗いふるいにかけた後は、深く考えずに選ぶ。
それを重ねるだけで、最終的には、ある方向に進んでしまうものなのかもしれない。

似たようなことを以前にも書いたけど、もう一度、書いとく。
今かいつか、選びかねている誰かさんに宛てて。
2

2015/2/17  23:33 | 投稿者: 時鳥

「お札と切手の博物館」で見たものの話。これが最後。
常設展示の中に、紙幣の歴史について解説するコーナーがあった。
日本の最初期の紙幣として、藩札を何枚か展示しているのが目に留まった。
江戸時代に、各藩が出したお札、というか、手形。
縦長で、金額や発行元などの必要事項を木版印刷し、判子がいくつも押されている。
藩ごとに出すものだから、出さない藩もあったけれど、幕末にはほとんどの藩が発行していたそうだ。
県債とか国債に近いものだから、格付けがあったんだろうな。きっと。
この藩の10両は9両半にしか換算しないとか、あの藩のは扱っていないから、両替してきてくれとか。

藩札を見ていると、金額部分や発行元部分や判子の文字など、それぞれが別の書体で書かれているのが分かる。藩をまたいでいても、書体や配置にはそんなにバリエーションがない。
どこにどういう書体を使うかが、ある程度決まっていたのかもしれない。
ある書体がどんな印象を与えるか、どういう場面で使われるか、権威や信用につながる書体、固い文書用の書体と気楽な読み物用の書体、などなどの不文律が、社会全体とは言わないまでも、少なくともある層の中では浸透していて、それに沿ってあれこれ書いているように見える。
2

2015/2/15  22:30 | 投稿者: 時鳥

印刷局書体に関する、もうひとつの「もしも」。
もしも、印刷局書体が政府刊行物以外の分野でもシェアを伸ばしていたとしたら。
そうしたら、民間の活字に競り勝って、官報に残り続ける道もあったのだろうか。
活版印刷の時代は、金属活字と言う物体を大量にストックしていないと印刷ができないので、多種多様な書体を取り揃えることは難しかっただろう。
そうすると、どこの印刷所でも大体同じ、数種類の活字を持っていて、そこから漏れた書体はほとんど印刷不可能な状況になるのではないだろうか。
多くの印刷所が持っている書体は使いやすいからますます使われるようになり、そうでない書体はますます使われなくなる。
俗に言う、「一人勝ち」の状況。

翻って現在は、コンピューターの上で珍しい活字を簡単にレイアウトできて、そのまま印刷ができる。
使われる書体の種類は非常に増えて、群雄割拠あるいは百花繚乱の時代。
圧倒的なシェアを持つ書体っていうのも、往時に比べれば減っているんじゃないだろうか。
何も調べていないし、状況をまるで知らないしで、まったくの想像でしかないけれど。
1

2015/2/15  22:15 | 投稿者: 時鳥

前項にて、印刷局書体が姿を消した時期を昭和中期と書いたけれど、これは印刷局の刊行物全体での話であって、官報に使われなくなった時期はもっと早い。昭和初年にはもう民間の書体に取って代わられている。
印刷局書体が官報に採用されたのは大正8年1月だから、実質10年も使われていないのだ。
印刷局書体は、割と好評をもって受け入れられたという。それが10年もしないうちにお払い箱になったのは、「大量印刷の必要が生じた場合、融通性に問題がある」という理由からだった。
要するに、独自性が強すぎたからということになろうか。関東大震災で印刷局が被災した際、政府刊行物を製作するのに、相当苦労したと見える。
当時の印刷は活版印刷だから、印刷所に活字がなければ、版を作れず、印刷もできない。
官報のように、全国に広く行き渡らせる必要のある印刷物は、どこででも手に入る活字でなければ、確実に、迅速に発行することができない。
そんなわけで、印刷局書体は官報から外され、先細りになった。
しかし、これがもし、小部数しか印刷できないことに価値を見出すタイプの印刷物だったら、印刷局活字は現在も存命していたかもしれない。
端的な例を挙げれば、紙幣や証書、印紙の類だ。
こうしたものは、特別な場所で限られた数しか印刷されないことに価値があるので、いくら独特の書体を使おうが問題はない。むしろ、他の文書では使えないくらいユニークでアバンギャルドで、尖がっていたほうがいい。書体が既にブランドの一部なのだから。
ロゴやサインや花押も同じで、読めなかったり変だったりするのが逆に価値につながる。
フラットにして量産量販を目指すか、差別化してブランドを目指すかの違い。
差別化すべきでないものを差別化して失敗したのが、官報における印刷局書体のケース。
2

2015/2/14  22:37 | 投稿者: 時鳥

「イマジン・ヨコハマフォント」というフォントがある。
横浜市が150周年記念に作ったもので、なかなかに美しいフォントなのだけど、ひとつ大きな問題がある。
英数字、ひらがな、カタカナは全部の文字があるけれど、漢字は「横浜市」と18区の名称に含まれる30数文字しかないのだ。
というわけで、さっぱり普及していない。

一介の百万都市でしかない横浜市が独自のフォントを持っているのだ。
日本という国が独自フォントを持っていないはずはないのだが、これまで考えたこともなかった。この展覧会の名称を見るまでは。
というわけで、「紙幣と官報 2つの書体とその世界」を観に、お札と切手の博物館に行く。

国立印刷局の最初の形である印書局は明治5年に創設され、明治8年から活版印刷事業を開始した。公達書類や各機関の諸広告等の機密印刷物等、公的機関の印刷物の製作が主な業務で、その中で官報用の「印刷局書体」が生まれた。
印刷局書体は何度か改造され、明治末期の改造をもってひとまず安定したのだが、昭和の初めから民間の活字に取って代わられ、昭和中期に姿を消した。
一方、現在紙幣に使われている書体は「大蔵隷書」と呼ばれているもので、戦後に成立した。
戦前の紙幣は隷書以外にも篆書や楷書など、さまざまな文字が使われていたが、昭和26年以降の紙幣は印章部分に篆書が使われているのを除き、すべて隷書に統一されたのだそうだ。
そんな書体があることすら知らなかったが、言われて見ればお札のどこを見ても、同じ様な形の文字しか乗っかっていない。
小学校の漢字テストで書いたら、はねているだのはねていないだのでバツを食らいそうな文字。
これ、隷書だったのか。よく見ると、「五」の右肩が極端に落ちている。
なお、この書体は紙幣のみで、硬貨には使われていない。紙幣は印刷局、硬貨は造幣局の管轄。

現在の「大蔵隷書」の文字数は、4512文字。
平成11年、MacintoshとWindowsの両方で使用可能なOpenTypeフォントが発表されたが、4512文字中、非漢字は132文字で、隷書では表現できないひらがな、カタカナは含まれないとのこと。
アルファベットとアラビア数字は含まれるのだろうか。
どちらもお札には載っているけれど。

「イマジン・ヨコハマフォント」
http://www.city.yokohama.lg.jp/bunka/outline/brand/output02.html

1

2015/2/12  23:44 | 投稿者: 時鳥

前項において、錘がなければ生活が成り立たないみたいなことを書いたが、後で気づいた。
江戸時代の日本人なら楽勝だわ、これ。
紙さえあれば、服だろうと傘だろうと瓦だろうと作れるのが日本人だった。
紙縒りを糸にすれば、縫い物もらくらく。
紙じゃ心許ないのであれば、藁を使えば問題なし。
紙と竹と藁があれば、生活に必要なものの大部分を作れる人々。

前項で引き合いに出したロープだけど、これもよく考えたら、植物のつるで代用できる。日本人でも西洋人でも可能。
でも、実際、眠り姫の錘って、どんな道具なんだろう?イメージでしか想像できていない。
こんなときに役立つのは、『図説 イギリスの生活誌』である。
1914年生まれの英国人が書いた生活道具の本。図版写真多数掲載。
台所用具に始まり、掃除洗濯織物縫い物、乳製品の製造にいたるまで、幅広くカバーしている本書によると、糸紡ぎの始まりは、紡錘だけを使った手紡ぎ。
農作業の行き帰りに、小脇に挟んだ紡錘を使って糸を紡いだりもしていたそうだ。
そういえば、『眠り』の1幕の開幕早々、糸を紡いでいて逮捕されかけた農婦たちも錘だけを持っていたっけ。
ということは、糸車でなく、錘なのね、取り締まり対象になったのは。
2

2015/2/11  21:41 | 投稿者: 時鳥

ふと、「眠れる森の美女」のことを思い出した。
オーロラ姫は、16歳になったら糸車の錘に指を刺されて死ぬ呪いを、悪い妖精によってかけられる。
娘の身を案じた父王は、国内で糸をつむぐことを禁止し、糸車を破棄する。
しかし、だ。
そうなると、国内の繊維産業が壊滅する。
糸を紡げないということは、布を織れないし、編み物もできないし、ロープも作れないということで、そうなれば服や布巾を新調できないし、家畜をつなぐにも事欠く。
フェルトなら紡がなくても作れるけど、ひょっとして、布類をすべてフェルトでまかなっていたのだろうか。
だとしたら、オーロラ姫が成長するまでの16年間で、いっぱしの地場産業に育っていたはずだ。
縫い糸がないから、服の形も変えなければならない。
トーガ形式か巻きスカート形式か和服形式にして、縫わなくてもピンや帯だけで着られるようにする。
糸車をなくすってだけで、生活様式が根本から転換を迫られる。

別の解法としては、糸車以外に糸を紡ぐ方法を新しく開発したと考えることもできる。
また、糸車と錘を別の名前で呼ぶようにするという手もある。
これなんて、かなり確実な方法なんじゃないだろうか。
「錘」を「くらむぼん」、「くらむぼん」を「錘」と呼ぶことにしておけば、16年後、悪い妖精が錘を持って現れたとしても、それはくらむぼんということになる。
「錘に刺されて死ぬ」が呪いなのだから、くらむぼんが何をするはずもない。
妖精がくらむぼんを持って現れたら、それは錘ってことになってしまうけど、正体不明、実在不明のくらむぼんをわざわざ持参するほどの執念なら、ここはもう、しょうがない、百年くらい眠ってやってもいいだろう。
その節には、眠りに就く前に、くらむぼんとは何だったのか書き残してくれるとありがたい。
日本人が80年抱えてきた謎が解ける。
1

2015/2/9  22:12 | 投稿者: 時鳥

『五色の舟』という漫画を読んだ。
時代は太平洋戦争末期、主人公は見世物一座の少年。
少年は生まれつき両腕がなくて、耳も聞こえない。にもかかわらず、周囲で話されていることが完璧にわかっている。
どうやら、読心術とかテレパシーとかの類らしい。会話の噴出しは普通、一重線なのが、少年の視点になると途端に二重線になる。
少年は、話していることはわかるのだけど、音はわからない。頭の真後ろで鐘を鳴らされても気付かないし、口も利けない。
だから、聾唖なのだと周囲にもわかる。
でも、もし、この子の力が、音も知覚できるものだとしたら、一体どうなっていただろう。
耳が聞こえないとは気付かれないのではないだろうか。
聴覚細胞や鼓膜とは別のメカニズムで音を聞いていたとしても、結果として音に反応しているなら、誰も疑わない。自分と同じ方法で音を聞いていると信じる。自分が聞いているのと同じ音を聞いていると信じる。
自分自身に対しても、同様に信じている。医学書に載っている方法で自分は音を聞いていて、ほかの人と同じように聞こえている、と。
だけど、わたしの聞こえ方はわたししか知らないし、あの人の聞こえ方も、その人の見え方も、隣に座る誰かさんの触覚も、どれもこれも本人にしかわからない。
わからないものを、何となく、自分と似たようなものだろうと類推して日々、生活している。
ひょっとしたら、テレパシーで聴いているんじゃないかとか、視野が270度くらいあるんじゃないかとか、本気で疑ったりはしない。
そんなことをいちいち疑っていると、世界が茶碗蒸しのように揺らぐ。
茶碗蒸しの可能性もあるけど、とりあえずないことにして、歩いて大丈夫なくらい固いものだと想定して、お約束を色々と張り巡らせて、その糸の上を歩いている。
磐石の振りをしているけど、ほんとうは空中で、中空。
本物はふるふると揺らいで、踏みしめるたび、ぼこりぽこりと穴が開く。
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