2016/12/30  23:46 | 投稿者: 時鳥

染付古便器を見るため、渋谷に行く。
Bunkamura Galleryで「染付古便器の粋」という展覧会が開催中なのだ。
チラシからしてもう楽しそうな匂いがしていたが、実物は予想以上に楽しくて、目を皿のようにして会場を行ったり来たりする。

日本において、陶製の便器は安政年間(1854〜60)に生産され始めた。木製に比べて耐久性があり衛生的で美観も優れているが高価で、しばらくはあまり普及しなかった。
時勢が変わったのは明治24年(1891)の濃尾大震災からで、震災からの復興を機にやきものの便器は全国に普及していく。そして、現在でも使われている。
しかし、である。染付で花鳥風月を描いた便器なんてものは、今ではお目にかかれない。
そもそも、そんなものがあるなんて、想像もできない。
会場のパネルによると、染付の便器が盛んに作られたのは明治20年代後半から30年代後半にかけてのほんの短期間のことで、その後は白磁や青磁が主流になってしまったのだという。
便器に青磁、というのも突っ込みたいところだが、今はそこではない。染付便器の話である。

朝顔形小便器や小判型大便器がずらりと並んでいた。
白地に藍色で松だの鶴だの桜だの梅だの蝶だのが優美に描かれている。
陶器も磁器もあるが、どれも焼き物として十分に美しい。でも便器である。
厠下駄、という、小便器の前に据え置かれるスリッパ形の焼き物もあった。
牡丹が咲き、菊が咲き、雀が飛び交う。小便の跳ね返りを避けるための道具に、この美意識。
美しさと目的との間に落差がありすぎて、頭がくらくらする。
安政年間から生産していたのは瀬戸で、ここでは陶器と磁器の両方が焼かれた。数年間だけ有田でも磁器が焼かれた。また、山形市の平清水でも陶器が焼かれた。
磁器の便器は染付でなくても高価で、富裕層向けだった。
染付便器は、料亭や旅館などに主に設置された。富裕層の屋敷の場合は、客間などの来客用のエリアに設置されることが多かったそうだ。
こうして直接見ると、それも理解できる。
どう見たってこの便器は非日常だ。
便器をただ陶磁器にするまではいいのだ。衛生面や美観の問題で常識の範囲で説明がつく。
しかし、そこに唐獅子牡丹だの富士山だの松竹梅だのを優雅に描きはじめたら、もう常識では説明できない。人を驚かせて、別世界に連れて行こうとする意思がないと、そんなものは生まれてこない。
会場には実際の個室空間を再現した一角もあり、首を突っ込んで感嘆する。
トイレに行くつもりでここに着いたら、とりあえず10秒くらい呆然とすると思う。
朝顔形小便器や向高のような立って用を足すスタイルの便器は、今、売り出したらドバイの大金持ちとかが喜んで買って行きそうだ。
この、必要のないところまで凝りまくり、美的センスを発揮し倒し、大真面目に全身全霊を懸ける姿勢が素晴らしい。
ものが便器でも差別しない。花や樹や鳥、雪や波や山を精密に丁寧に描く。
中には、名工の作るブランド品まであって、作るほうも楽しかったんだろうな、と観ていて思う。
床の間に飾る壺ではできない冒険も、便器でなら出来そう。
美しい便器を作るために費やされる膨大なエネルギーにとにかく圧倒され、便器だとか有田だとか細かい事を気にするのが馬鹿馬鹿しくなってくる。
人を非日常に連れて行く、最強の道具たち。


「染付古便器の粋 青と白、もてなしの装い」
Bunkamura Gallery(渋谷)
期:12/28〜1/9 10時〜19時半(1/1休み)無料
※12/31、1/2、1/3は18時まで
Bunkamura1階メインロビーフロア
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2016/12/29  23:09 | 投稿者: 時鳥

カリプソメークについて書かれた文章を読む。
昭和32年にカリプソ音楽の「バナナ・ボート」という曲がヒットした。
その曲を歌っていた浜村美智子さんという人がしていたのがカリプソメーク。
長い茶髪、黒いアイラインとアイシャドー、ブラウン系のアイシャドーに頬紅は無し、こげ茶で眉を描いて、唇は輪郭を描くだけ、というようなメークだったそうな。
ピンク系で丸くふんわりまとめるのが一般的な化粧だった時代に、この尖りよう。
記事には、浜村美智子さんの写真が添えられていた。
白黒写真なので色合いはわからないが、今日、街を歩いていても全く違和感がない姿である。
当時は異様でも60年経った現在ではおかしくない、ということは、今の時点では異様な風体でも未来にはおかしくなくなるのかもしれない。
ちょっと古いけどヤマンバスタイルとか、若者に一瞬だけ流行る何とかスタイルとかも、いつかは普通になるのかもしれない。
と思いかけたところで、もう一度写真が目に入った。
あ、でも、見直したらこの人、普通に美人だった。
カリプソメークがどうこう以前にもともと目鼻立ちが整っていて、そこにピンク化粧よりも似合うカリプソメークを施したから、うまく行ったのだった。
当時、若い女性の間で流行ったメークだったらしいけど、丸顔で童顔の人だとこれは致命的に似合わない。そういう人は最終的にピンク化粧に戻り、少数の似合う人だけが継続的にしていた化粧だったのではなかろうか。
ピンク化粧への反旗。
ひとつの流行に合わせて全員が同じ化粧をする時代から、各人が自分に合ったメークをする時代に移行する、小さなきっかけのひとつだったかも。
3

2016/12/27  23:28 | 投稿者: 時鳥

府中市美術館で開催中の「ガラス絵 幻惑の200年史」という展覧会のチラシを入手する。
ガラス絵は江戸中期に日本に伝わった絵画技法で、ガラスの裏面に絵の具を載せて絵を描き、出来上がったら裏返してガラス面から鑑賞する。
普通の絵は最後に描いたものが一番上に見えるけれど、ガラス絵は逆で、最初に描いたものが一番上になる。描き直しは出来ない。
ちょっと変わった技法なので作品数は多くないが、小出楢重、長谷川利行、藤田嗣治、川上澄生、桂ゆきなどの画家も作品を残しているのだそうだ。

展覧会も面白そうだが、今回は展覧会チラシについての話。
チラシを手にして、はっとした。
このつるつるの手触りと光の反射は、キャストコート紙だ。それも非常に光沢の強い。
艶があるのを通り越して、顔を近づければ自分の顔が映りこんで見える。
展覧会のチラシでこんな紙を使っているのなんて、これまで見た記憶がない。
ガラス絵の展覧会だから、おもて面にはいろいろな作家のガラス絵の断片がちりばめられている。
絵の具の粘り、鮮やかな色彩がガラスの中に封じ込められている。
それが、ぺかぺかの紙に印刷されて、輝いていて、チラシがもうそのままガラス絵のように見える。
近来まれに見る粋な趣向だと思う。
3

2016/12/25  23:46 | 投稿者: 時鳥

新しい財布を購入する。
今回の財布は、よく使うカードを入れるための薄いポケットが外側についている。
財布を開かなくてもカードを出したり、読み取り機に押し付けたりできる造りだ。
何かしらのカードを頻繁に使う人が、この数年、あるいは十数年でそれだけ増えたのだ。
必要があって、機能やアイデアやデザインが生まれる。
こういうマイナーチェンジって、あまりにもしっくり来るものだから、後になると完全に普通になって逆にそれがなかった時代が想像できなくなる。
財布の外側のカードポケットは、本当にいい仕組みだと思う。
ちょっとだけ希望を付け加えるなら、財布の中のカードは絶対に読み込まないようにしてくれたら、もっと完璧。
他のカードを読まれるんじゃないかと、いつも不安になるから。
2

2016/12/23  22:22 | 投稿者: 時鳥

万年カレンダーを手の中で弄んでいて、ふと気付いた。
カレンダーと言うのは、日曜日、あるいは月曜日が左端にある。
だから毎月のついたちが右や左や真ん中に出てくるのだが、考えてみたら、曜日のほうを動かしたっていいのだ。
左上隅が必ずついたちで、曜日の位置の方が月ごとに変わるカレンダーにしたって、別にいいのだ。
作る側としては、30個もの数字を右に左に動かすより、7つの曜日を動かしたほうが楽と言えば楽なはず。
使う側は、毎月月曜日の位置が変わることに、最初は戸惑うだろうけど、そういうのって結局、慣れでどうにでもなる問題だと思う。
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2016/12/18  22:13 | 投稿者: 時鳥

近所のいくつかのスーパーに、無人レジが導入された。
自分でバーコードを読ませて会計するのだが、全てが無人になったわけではなく、有人レジはいくつか残っているし、無人レジのそばにはトラブルが起きた時のために必ず係員がいる。
で、この無人レジは非常にしばしばトラブルを起こすものだから、一人で数台を監視するのはなかなかに大変だ。
行く度、とは言わないまでも、頻繁に仕組みが変わっているので、現在は試行錯誤の真っ最中らしい。
今のところ、無人レジになって楽になった人が誰一人いないように見えるので、もうちょっといい運用方法が見つかるといいなと思う。
思いつつ、無人レジのない店につい足が向く。
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2016/12/15  23:38 | 投稿者: 時鳥

画面上の四角いボタンをクリックしながら、ふと思った。
この、マウスポインターで行うクリックだのドラッグアンドドロップだのって、現実に置き換えれば1本の指で何もかもを行おうとしているようなものだ。
現実世界では2本以上の指でつかんだりつまんだりひねったりしているのだ。
そろそろ、スクリーンの中の世界にもつまんだりひねったりができていいような気がする。
2点がスクリーンと接触している時に、それが2本セットなのかばらばらなのか、判別するのは難しいだろうけど。
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2016/12/14  7:27 | 投稿者: 時鳥

駅のホームに貼紙があった。
平日朝のラッシュ時にこのホームで起きた事故の目撃者を探している。
これ、どちらかと言うと逆方面行きのホームに貼るべきじゃないだろうか。
その事故を目撃した人は、毎朝ラッシュの時間に電車に乗っている人である可能性が高い。
その人が貼紙の存在に気付いたとしても、朝の混雑の中、誰も彼も急いでいる最中にわざわざ足を止めて張り紙を読む人なんてほぼありえない。
夜になれば逆方面行きのホームに降り立つ人たちなのだ。
まだ時間と心の余裕がある夜の方が、足を止めてくれると思う。
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2016/12/11  22:57 | 投稿者: 時鳥

京橋のLIXILギャラリーで、始まったばかりの企画展を見る。
企画展のタイトルは、「WASHI 紙のみぞ知る用と美」。
紙で作られたあれやこれやが会場に所狭しと並べられている。
事前にブックレットに目を通していたため、予測はしていたのだが、実物を目の前にするとやはり賛嘆の念が抑えきれない。
傘、布団、着物、机はもとより、煙草入れだろうが氷嚢だろうが和紙で作ってしまう人々。
まるで、身の回りにあるあらゆる品物を紙で作ろうと試みているみたいだ。
成功したものの一部だけが今日残っているけれど、試行はこの数十倍、数百倍、きっと無数に行っている。
それらの試行を許すほど、紙の生産量が多かったというのは確かにある。和紙の品質の高さもある。
が、それ以前に、作り手たちが紙の可能性を信じているところに凄みを感じる。
これは紙で作れる、と、考えてしまうところにまず驚くし、あきらめずに試行を重ねて、手間隙を惜しまぬ作業によって実用化したことにも頭が下がる。
2

2016/12/9  7:46 | 投稿者: 時鳥

12月になった。
ということは、そろそろ、あの企画の季節だ。
ということで、クリエイションギャラリーG8の現在の展覧会を調べる。
「170人のクリエイターと有田の窯元がつくる熊本天草陶石の磁器展 藍色カップ」
が見つかった。

銀座8丁目のクリエイションギャラリーG8と7丁目のガーディアン・ガーデン。
この2つのギャラリーは、毎年年末になるとチャリティ企画展を開く。
傘やコーヒーカップやトートバックなど、年毎に決められたアイテムを、ギャラリーと交流のあるクリエイターが無償でデザインする。
会場でそれを展示販売して、収益金を寄付する。
今年はそれが有田焼のカップで、収益は熊本の被災地支援に使われる。

通販も行っているそうで、サイトには全作品の写真が掲載されていた。
小杉幸一さんの文字にぎりカップを見つけて、がぶっと食いつく
「まぐろ」とか「たこ」とか「はまち」とか「あわび」とかの文字がにゅるりとゆるんで、寿司飯の上に乗っかって、ぴちぴちの寿司になる。
その日のうちにギャラリーに足を運んだが、会場の在庫分はとっくに売り切れていた。
会期中なら通販で予約注文ができるので、すぐに申し込む。
小阪淳さんの太陽系惑星を並べたカップや、矢吹申彦さんのペンギンカップ、佐藤卓さんのラーメン丼風カップ、田中竜介さんの避暑地風カップにも惹かれるものがある。

会期はクリスマス・イブまで、カップは税込で2100円。
高さ8cm、直径8.5cm。手のひらに載って、片手でつかめる大きさなので、蕎麦にも向付鉢にも飲み物にも使えそうだ。

「170人のクリエイターと有田の窯元がつくる熊本天草陶石の磁器展 藍色カップ」
会期:11/22〜12/24 11時〜19時(日曜休み)無料
会場:
クリエイションギャラリーG8(銀座8-4-17 1F)
ガーディアン・ガーデン(銀座7-3-5 B1)

http://rcc.recruit.co.jp/creationproject/
12月になった。
ということは、そろそろ、あの企画の季節だ。
ということで、クリエイションギャラリーG8の現在の展覧会を調べる。
「170人のクリエイターと有田の窯元がつくる熊本天草陶石の磁器展 藍色カップ」
が見つかった。

銀座8丁目のクリエイションギャラリーG8と7丁目のガーディアン・ガーデン。
この2つのギャラリーは、毎年年末になるとチャリティ企画展を開く。
傘やコーヒーカップやトートバックなど、年毎に決められたアイテムを、ギャラリーと交流のあるクリエイターが無償でデザインする。
会場でそれを展示販売して、収益金を寄付する。
今年はそれが有田焼のカップで、収益は熊本の被災地支援に使われる。

通販も行っているそうで、サイトには全作品の写真が掲載されていた。
小杉幸一さんの文字にぎりカップを見つけて、がぶっと食いつく
「まぐろ」とか「たこ」とか「はまち」とか「あわび」とかの文字がにゅるりとゆるんで、寿司飯の上に乗っかって、ぴちぴちの寿司になる。
その日のうちにギャラリーに足を運んだが、会場の在庫分はとっくに売り切れていた。
会期中なら通販で予約注文ができるので、すぐに申し込む。
小阪淳さんの太陽系惑星を並べたカップや、矢吹申彦さんのペンギンカップ、佐藤卓さんのラーメン丼風カップ、田中竜介さんの避暑地風カップにも惹かれるものがある。

会期はクリスマス・イブまで、カップは税込で2100円。
高さ8cm、直径8.5cm。手のひらに載って、片手でつかめる大きさなので、蕎麦にも向付鉢にも飲み物にも使えそうだ。

「170人のクリエイターと有田の窯元がつくる熊本天草陶石の磁器展 藍色カップ」
会期:11/22〜12/24 11時〜19時(日曜休み)無料
会場:
クリエイションギャラリーG8(銀座8-4-17 1F)
ガーディアン・ガーデン(銀座7-3-5 B1)

http://rcc.recruit.co.jp/creationproject/
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2016/12/6  23:46 | 投稿者: 時鳥

LIMEXという新素材について説明した紙をもらった。紙やプラスチックの大体になる素材だそうで、説明のこの紙もLIMEXだ。
成分は約6〜8割が石灰岩、残りが樹脂で、製造に当たっては木も水も使わない。普通の紙を1トン作るには20本の木と100トンの水が必要と言われているから、環境負荷はそれだけ低い。
眺めて触れて、字を書いたり端を折ったり濡らしたりしてみる。
手触りはユポなどのプラスチックの紙によく似ている。
手元にあるのは名刺くらいの厚さのA4の紙で、1枚で21グラムある。1平方メートルなら300グラムを超えるだろう。軽い紙ではないけれど、非常識なほど重い紙でもない。これで冊子を作ると、結構重く感じるだろう。
鉛筆で字が書けるが、消しゴムで消すと黒く汚れて、きれいに消えない。消せるボールペンで書いて、お尻のラバーで消すのはうまくいった。
水に強く、濡らしてもふやけない。水分をふき取ればすぐ元通りになる。
折ってもあまり折り癖がつかない。ちぎろうとしても紙が伸びて、なかなか切れない。
いろいろな点で紙とは違う。
これまで紙が活躍していた場所を丸々乗っ取ろうとしているのではなく、紙の持っている機能の一部を引き受けようとしているようだ。
普通の紙に出来ないことがいくつか出来て、普通の紙に出来るいくつかのことが出来ない。
この素材を使って、お風呂で読める本は作れるけれど、トイレットペーパーやティッシュや紙おむつは作れない。
ちぎり絵やアートフラワーには使えないけれど、紙飛行機や建築模型は作れる。ステンシルなどの型紙にも向いているだろう。
紙にできることを代わりにさせるのもいいけれど、こうして眺めて触っていると、それだけではもったいないような気がしてくる。
せっかく紙にできないことが出来るのだから、これに出来ることは何かってことを一から考えてみたほうがきっと面白い。
この素材に限った話ではなく、何かの代わりとして生まれたものがその枠から抜け出す瞬間と言うのが、必ず訪れるはずなのだ。
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2016/12/3  22:12 | 投稿者: 時鳥

「タコ船長とまちわびた宝」という短編アニメーションを見る。
ある宝箱がいて、シロクマ船長に開けてもらいたかったのだけど、先に彼女を見つけたのはタコ船長だった。宝箱は海の中を逃げて、タコ船長はそれを追い、シロクマ船長も手下と共に後を追う。
主役はタコ船長。タコ船長の動きや宝箱からこぼれる輝きなんかを見るべきかもしれないが、私としては宝箱の今後が気になった。
宝物をこぼしながら、宝箱は逃げる。海の底へ底へと潜っていく。
憧れのシロクマ船長はワイルドで格好よく、対してタコ船長はひょうきんでおじさんっぽく、風采が上がらない。こんな相手は嫌、と宝箱が思うのも無理はない。傍から見ればタコ船長のほうが人格的に優れているのは明らかなのだけど、そこはまあ、世間知らずの小娘の見た目最優先主義ってことでいいことにする。
私に分からないのは、宝物を放棄して行き先も定めずにただ逃げて、この宝箱がこの先一体どうするつもりなのか、だ。
宝物を内側に持っているから、タコ船長もシロクマ船長も宝箱を追いかけているのだ。
中身をなくして海底に着いた宝箱は、そこでも開けてくれる相手を待つのだろうか。
求められているのは中身の宝物であって、宝箱そのものではない、と、宝箱はいつ気づくのだろう。
朽ちるまで誰にも開けられないなら、宝箱はその真実に気づかなくてもいい。気づいてもいいけど、気づかなくてもいい。
でも、誰かの手に入ってしまえば、中身が大事に扱われ、外箱が雑な扱いを受ければ、その時点で気が付かないわけには行かない。
宝物を失った宝箱は、海底で朽ちるまでずっと、宝箱そのものを求める誰かを待ち続けるのかもしれない。いるはずのない相手、適うはずのない希望をいつまでも胸に抱えて。

いつか気づいて、自分の宝物を探しに行ってくれればいいのだけど。
他人の求める宝物を手放した宝箱は、自分にとっての宝物を探して、海から海へと旅をし、自分の箱をとびきりの宝物でいっぱいにしました、ってなってくれれば、とても安心できるのだけど。

「タコ船長とまちわびた宝」飯田千里 2016年 7分
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