わしが手元でキープしたことのあるスネイクスキンはYリンクの形質(キングコブラとかフィリグランとか呼ばれる形質)で,体表(ボディと発色が許されたヒレの表面)に灰褐色の不規則曲線群を描く形質であった.流通名でいえば「モザイクコブラ」「ゴールデン・レースコブラ(Xは無柄)」「THメタルモスコー(Yリンクのメタル+スネイクスキンでXリンクのモザイクテール)」「オレンジレースコブララウンドテール」「レッドテールコブラ」「オレンジレーストライアングル」等である.
ま,要するにコブラ系を好んで飼っていたといっても過言ではない.だが,これまで主に上記のような系統を見てきたために「レース」という言葉が理解できず,強い違和感がある.あまりほめられたことではないが,今回はホラ吹き記事であることをご容赦いただきたい.これもスネイクスキンへの思い入れのなせるところである.これについては,できればはやく理解を深めて,こんな記事を書かなくても心穏やかに暮らせるようになりたいものである.
「スネイクスキン」という柄について,以前のBLOG記事で....ボディ表面のウニョウニョがヒレまではみ出してくる....という言葉使いで表現したが,実際には体側の曲線群よりもヒレ,すなわち背びれ全体と尾びれで発色がセットされている部分(=トップソードとか中落ちとかデルタテールとか....)のほうが柄が若干細かい.YリンクスネイクスキンがノンカラードのXと組み合わされるとき,ヒレの繊細な模様は「レース」と呼ばれる.
一方,GUPの多くの系統において,背びれ+尾びれは「色つき」であり,その形質の多くはスネイクスキンの形質よりも上位にあって,ウニョウニョ模様を凌駕してしまう.ボデイでも色つき形質のいくつか(たとえばモザイク系の尾筒班やタキシード系のハーフブラック,メタルもそうだな....)はスネイクスキンよりはるかに強く,その発色を抑える,あるいはうえから塗りつぶす,という傾向にある.
いわゆるキングコブラという「基本品種(この言葉もわしには理解不能)」にしても,体はYリンクスネイクスキンだが,背びれ+尾びれの黄色地に黒スポットが,レオパードより密に,グラスより大柄にちりばめられている形質はXリンクであり,ボデイ柄の邪魔はしないもののウニョウニョ柄の支配下にあるわけではないだろう.
さて,スネイクスキンの形質について,Xリンクのものがあるのだそうだ.わしはXリンクのスネイクスキンに出会ったことがないので知らないのだが,多くの人が予想しているように,たぶんこれはYから引っ越してXリンクとなったものだろう.このXは他の色彩要素に乏しく,これとYリンクスネイクスキンを組み合わせるとボデイと背びれ+尾びれがウニョウニョ柄になる.いわゆる「レース・コブラ」である.XもYもスネイクスキン形質をもっているというわけだ.ところが,書物やネットではこれをXコブラとかXフィリグランと言わない.「Xレース」と書く.
だが,上述のようにXが無柄でYがコブラという組み合わせでもレース・コブラ様の色彩を呈するわけだし,逆にYを無柄のものにしてXリンクスネイクスキンをあててもボディにウニョウニョ柄を描くことはできるはずだ.もちろん,Yリンクスネイクスキンと比べて多少の影響や改変はあるだろうから,「仕上がり」は違うかもしれないが....皆がいうようにYから引っ越してきたならほぼ同様の機能をもつ形質なのだと思う.したがって,レース・コブラという系統のウニョウニョ柄は同一の形質がボデイとヒレという異なる部位を彩っているだけであり,誤解を恐れずに言わせてもらえば「全身スネイクスキン」なのじゃないか?!
ここに,長年にわたるわしの混乱を見出すことができる.つまり,「コブラ」と「レース」という言葉が,ちゃんと整理されずに使われているように思うのである.すなわち:
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【発現する部位による異称】
ボデイのウニョウニョ柄はコブラで,ヒレのウニョウニョ柄はレース
【Xリンク・Yリンクの相違による異称】
Yリンクのフィリグランはコブラで,Xリンクのそれはレース
上には書かなかったが,大まかな模様はコブラで細かい模様はレース(模様の相違による異称)....などという文言を見ることさえまれにある.でも,こんな相違に基づいて呼称を使い分けるのは混乱を招くだけだと思うのである.
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そういうわけで,田舎に住んで,極めて限られた系統しか扱っておらず,「Xレースのレースコブラ」なるものを見たことない私のようなものが理解不能に陥るのもやむを得ない....と思う.
やっぱり,一度Xレースを持つメスを入手して,他のオスをかけて自分で確かめなくちゃいけないのだが,田舎で売ってて,わしがこれまで入手したレース・コブラの系統はどれも無柄のXであってレースじゃなかったので,お金の無駄遣いで終わった.その結果,「もう今更買い物したくねーや」という気分になって,追求するのは諦めてしまった.
そして近年になって,わしをさらに混乱に落とし入れる事態が生じた.別の「Xレース」を入手して扱う機会があったのだ.市場に出回る現地採集モノや一部のショートテール系に「レース」という模様をもつものがある.背びれと尾びれの全体または一部,尾筒の一部または尾端にグニョグニョっとした模様を描く形質で,これがショートテール系のXリンクであって,一部のブリーダや愛好家が「レース」と呼んでいる.
これはどう見ても,レース・コブラのXレースとは絶対違う.発色する部位が限られているし,模様のニュアンスがスネイクスキンと異なるのは明白だ.レース・コブラのような繊細さがないし,色味が強くないので,これを使って商業的に成功する見込みはあまりないかもしれないが,これをレースと言うなら,スネイクスキンのレースと同じ名前はまずいだろう.
皆様ご存知のとおり,この「Yリンクスネイクスキンと,それがXに移ったXレース,それから別のXレース」について,別にわしが気がついたわけでも発見したわけでもなんでもない.某観賞魚店の店主でカリスマブリーダ,兼,観賞魚雑誌のライターをしておられた方が,ずいぶん前から雑誌の連載記事や著書のなかでお書きになっているものを見て知った,マタ聞きである.昨年,その方が雑誌の記事に「Yフィリグランと,それがXに移ったXフィリグラン,それからXレースを混同するなんてダメ」というような文章を書いておられた.短い文章だったので,詳細までは触れていなかったが,それを読んだわしは「そのうちにこの3つの形質をどのように取り扱うのが最もリーズナブルかについて,示唆されるのであろう」と期待を持って待っていた.ところが,あろうことかその方はそういう記事を書かれる前に,昨年末に急逝されてしまったのである.困ったなぁ.GUPについては,プロブリーダとか流通や出版に関わってるプロフェッショナルや,愛好家の方々,いろいろな人々がいろいろなお考えを持って関わっておられるので,複雑な事象をわかり易く提示することは困難である.上述の方はそういうことを気にせずに,わかり易く,誤解をおそれずどばっと発言するのを得意とされていたようなので期待していたのだが,ついに,わしの頭の中では,レースという言葉はウニョウニョ柄のスネイクスキン迷路の中に迷い込んでしまったのである.

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