初心者が新たに観賞魚愛好家となり,魚や水槽を買い込んで育て始めると,しばらくして他の魚を飼いたくなって水槽が増えてくる傾向があると思う.また,「芸歴」の長い愛好家の方でも,数年あるいは数ヶ月に一度というペースで時折降って湧いたように飼育熱が高まって水槽を増やしてしまう現象が起きるようだ.わしも幼少の頃に急激に水槽を増やして管理が大変だった....というよりは世話が行き届かなかった....という覚えがある.
さてgupだが,ここ数年とくに諸外国から次々と「新系統」が導入され,あるいはユニークな原種卵胎生魚とのハイブリッドが紹介される,という風潮がある.こりゃぜひ入手して育ててみたいものであろう.さらに,このような系統を用いた交配をやって魅力的な形質を発揮した個体が採れることがあり,この形質を残すために系統維持とは別に別タンクで保存したくなる.このような事情により,愛好家は「水槽を増やす」という一方通行に邁進せざるを得ない.「(世界のホラ話として有名な)レミングの死の行進」のように突き進む.....リビングの中は水槽でいっぱいだ.お家に飼育部屋とか温室なんか作れない.そんなとき,ベランダ・屋上・お庭....「屋外飼育」に目が向くのは必然だろう.gup水槽は水温が20℃を下回らなければ外に置いておける.屋外にタンクを置くとgupの体色が鮮やかになる傾向があるようだし,タンク置き場の制約があまりなく,少々水をこぼしても「無問題」で,お手軽飼育ができる.良い点がいっぱいだぁ.注:下の画像はgupではありません....って,当たり前かぁ.
で,ここからはちょっとネガティブなことを書く.これは,屋外飼育がダメとか,やってる人を批判する,というつもりではない.現にわしもやっている.あくまでも「ちょっと難しいみたいだから,やる人は頑張ってね」ということなのであることをご理解いただきたい.
九州北部の夏は暑い.特に夜は暑い.炎天下で猛暑日で熱帯夜....灼熱のベランダで水温はうなぎのぼりだし,比熱の高い「水」と「コンクリート」が暖まるので夜に水温が下がり難く,明け方でも気温より水温が高いまま,ということも起こりうる.ちなみにわしが使っている「屋上 100 L タンク」では水温のここ数日の日変化は「28℃⇔34℃」である.このような条件では,高温が直接gupの身体におよぼす影響のほか,感染症の危険が増大し,また高水温で酸素の溶存濃度が低くなることのストレスも大きい.ところがこの高水温傾向は秋の訪れとともに一変し,残暑の残る初秋には日によって水温が乱高下する傾向にシフトする.さらに季節の移り変わりで水温が下がった後,晩秋に部屋に取り込むことにより再び水温が数℃高い状態に引越させられることとなる.他の都市ならこれほどでもない?ここ数日の気象データとか見るとそれほど変わらないのじゃないかと思うが,住んだことないのでよくわからない.
また,屋外飼育だと水中に多くの藻類などの微生物が定着しやすく,これがgupの栄養源となるし,日中は光合成で酸素を出すとか,水中のリン・窒素を吸収するとかいう事象により,グリーンウォータの効能は計り知れないと聞く.しかし,藻類は夜間に酸素を消費し,エアレーションが行われていない場合には驚くほど溶存酸素濃度が下がる(測ってて,これでよく死なないなぁと思うほどのレベルである).また,水中で藻類等がリン分と窒素分を吸収しながら増殖してある程度の個体密度になると,その吸収と,それとは逆の生物群からの脱落によるリン・窒素の放出とが均衡的となり,それ以降に給餌により投入された分は水中に蓄積される以外にないこととなる.このような要因を勘案すると「藻類は水をキレイにする」と明快に言うことはできないだろう.
というわけで,大水量と広い水面を確保し,よしず等で遮光し,風通しを確保し,適宜換水により水質を確保,魚のコンディションに応じた適切な給餌....いやー難しいですねぇ.外でピカピカのワイルドフォームgupを作れる人って,わしは「名人芸」だと思う.やればやるほどそう思うところである.この夏から新たに屋外飼育を始めようという初心者の方は,水槽を立ち上げて数日の間は水と魚のコンディションの推移を注意深く観察して,一刻もはやく技術を習得されることを願ってやまない.「魚が煮えて死んじゃう(あくまでも比喩的表現で実際グツグツ煮るわけではないが....)」のはちょっとかわいそうかなぁ〜と思うのである.

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