先週,大手新聞社から日本全国に配られている夕刊にスクミリンゴガイの記事が載っていた(全国紙の紙面は地方によってレイアウトが異なるので西部本社福岡本部から出ているものの他に無いかもしれないが....).見出しは「ジャンボタニシ,やっぱり害虫?/大食漢,水田除草の便利屋,多雨で一転苗にも触手」だ.この「?」が付いているところに,今更ながら驚かされる.いやいや,自然科学系研究者の先生方の間で「新聞屋さんの科学部が書く記事は....」と批判されることは多いようだが,そういうことを言っているのではない.わしはこの記事の見出しを見て,スクミリンゴガイが世間でどう見られているかについて,あらためて実感したのである.
関東以西の陸水域におけるスクミリンゴガイの「要注意外来生物」としての脅威については知られるようになった.「やっぱり害虫?」どころじゃない,れっきとした「悪玉」である(害虫....って蟲じゃないでしょ).だが,そのこと以上に,これを水田雑草の除草に使う,という「裏技」の知名度があまりにも高く,これが一人歩きして,この貝の不適切な放流・伝播が行われて分布を広げ,強力な繁殖力によってその密度を高めている.で,後からイネ幼苗を食害することや,水田周辺環境へのインパクトが注目されて,「やっぱり害虫?」と来るわけであろう.
この貝を稲作に利用することについて,およびこのワザが普及してゆく過程において,わしが働いている職場に関係のある人々が少なからず関わっていると聞く(たぶんこんなとこ見てないと思うけど,いちおうコトバを選んで慎重に述べておこう),そっち系の方々は,皆さん,農業,試験研究,教育および農政に十分な経験と教養をお持ちであり,地球に優しい農業を目指す崇高な志をお持ちであり,スクミリンゴガイの害について熟知しておられる.そして,関東以西で分布を広げ,そのコントロールや駆除が困難であることもご存知だ.そこで,仕方がないので,この貝を耕種的手法によって水田雑草の除草に利用しよう....と繋がってゆく.すでに「悪い貝」がそこにいて,駆逐することが難しいので,イネへの被害を抑えて水田雑草を喰わせよう....このことは,貝を無秩序に撒き散らして「働き者の良い貝だ」などとうそぶく行為とは,(同じ行為であるとみなしうるとしても)基本的理念が異なるだろう.でも,「皆様の崇高な志に敬意をはらい,数々の偉業については十分に尊重いたします.なによりも人格的に尊敬してやまない立派な先輩ばかりです.ですが,貝だけは止めましょうや!」というのが,わしの個人的見解である.
まず,水田における貝の挙動をコントロールすることは容易ではないはずだ.「田植えをして2〜3週間水位を低く保って貝の活動を抑え,イネ苗が大きくなって食害されにくくなってから水位を上げて雑草を喰わせる」とか「冬季に耕起を繰り返して大型個体の密度を減らす」とかいろいろマニュアル化されているが,そういうことが現場でどこまでできているのか疑問だ.また,水田から周辺の水路,河川池沼へ貝がエスケープすることがどこまで制御できるのか,貝による除草を行っている水田の周囲の水路,河川・池沼における個体群密度はどう推移し,貝を駆除した場合と異なるのか,といったことについてリーズナブルな説明を見出せない.さらに,わしとしては,水田とその周囲の環境につい勉強してみたという見地からだけではなく,観賞魚愛好家としてコイツを飼育した経験があるという観点からも,「田んぼに,あのアップルスネールを放す」なんて信じられない暴挙に見えるのである.
利用可能なのだろう.利用するのが賢いやり方かもしれない.でも,いんたーねっつなどの場所で不特定多数を前にして言うべきことは「駆除」,「駆除 !」,「駆除!!」,「駆除 !!!!」,まずはじめに退治ありき,なのではないだろうか.たとえ「一度定着してしまった貝を駆逐することは不可能」であったとしてもだ.この頃は,ミズアオイなどの湿地性の稀少植物への食害も知られるようになった.無秩序な放流がなくても,水田土壌の客土によっても貝の分布が広がる.もう間に合わないかもしれないが,間に合うと信じたい.「貝を滅ぼせ!」それが,自然科学としての農学の探求を志す者としての意地ではないのか?!
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