お昼を過ぎて,天気が良い日にはそろそろ蕾がゆるみ始める.姫スイレンと呼ばれる小型種の中で最もよく見かけるであろうヘルウォラ(ヘルボラ)は魚を飼う人達にもお馴染みかもしれない.
モダンなビオトープガーデンなんかにも使われるが,登場はなんと19世紀.欧州から北米まで北半球に広く分布しているNymphaea tetragona(日本のはヒツジグサね)にN. mexicanaというフロリダとかメキシコに分布している黄色いスイレンをかけてつくったもので,作出は19世紀終わりから20世紀はじめに活躍したフランスの園芸家のマーリアクさん....という,とってもインターナショナルなトラディショナル園芸植物なのである.
なんの偶然か,こいつは「メキシカーナの黄色」を受け継いだ花ということで,いやーやっぱり花も魚もメヒコは黄色ですぜ,先生.
なにしろ小さい.葉が小さいだけでなく,地下茎がゴツゴツ延びまくったりしないので株周りがコンパクト.水深が5〜10cmくらいの極浅の方が調子が良く,手頃な睡蓮鉢で育てられる.ベランダの衣装ケースやプラ舟でメダカ等を泳がせて....と想像が膨らむ.しかし,以外に魚との相性はそれほど良いとは言えないところがある.これを植えて「葉は出るんだけど花があんまり咲かないんだぁ,毎年,何個か咲いて,もう終わりなんだぁ」という体験のある方もおられるだろう.
なにしろ日当たりが良くないと着花しないし,蕾が上がっても明るくないと開かない.そこで日向に置くと....夏は水温が急上昇.実はこいつは水が温もるのにけっこう弱いところがある.寒さに強くて凍りかけても死なないくせに......実際に育ててみると,とくに底床が高温になるのが苦手なように見受けられる.だから,実は容器は大きな方が適しており,水量ができるだけ多くて温度が安定している方がコンディションが良い.
また,小さいくせに肥培をしっかりしないと株が充実しない.春先に底床へしっかりと肥料を仕込んでおかないと夏場に極端に痩せて,結局花数が減ってしまう.底床への過剰な施肥は魚にとっては水質の悪化を招き,夏になると入れてる魚達が一尾,また一尾と少しづつ死んでゆくようになる.
結局,庭の池なら良いけどベランダでは難しい,なぁんてことになり,ベランダや屋上で成功させようとすると,大きな(浅くて広い)入れ物にたっぷり水を入れて比較的大きめの鉢に土詰めしてゆったりと植え込んで....大仕事だし,「こんな小さな草のために何でこんな大きなモノ置かなきゃいけないのか!洗面器で十分だろう!」という周囲の人々のヒンシュクもかい易いかもしれない.まぁ,いろいろな障壁はあるけれども,なにしろ数ある温帯性スイレンの中でもピカイチの魅力たっぷりな植物である.初心者の方にはまずはゆったり栽培で頑張ってみて,ちょっとした「育てるコツ」をつかんでほしい.それに慣れたら小さい容器でもたくさん咲かせられるようになると思う.
※園芸店で「ヒツジグサ」と混同されることもあるが,このヘルボラと,ホンモノの野生のヒツジグサとは肥培管理とか性質はずいぶん違うようだ.ヒツジグサをヘルボラと同じように世話してるとすぐ枯れちゃうらしい.

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