わしが熱帯魚を始めた頃からずっと,gupは色とりどりの長いシッポをひらひらさせて泳いでいて,身近にはそういうのしかいなかった.しかし,そもそも中南米に住む野生の小さな魚はヒレが短くて,それをヒトが文明社会に持って行ってgupという生き物を作り出したのだそうで,いやいやヒトってすごいなぁ.....
元の野生魚たちは広範囲の小川や湿地帯に分布していて水域ごとに隔てられやすい....と聞く(行ったことないもんな).結果的に各水域に特徴的な魚達が見出されることになるだろう.とはいえ,その集団の中でも遺伝的な幅を残しているのであって,色柄カタチにある程度の振れ幅を持った集団として保存されてゆくこととなる.そこから得られたほんの数尾の魚を飼って子,孫を採って,他と混ぜない「直系」を持つことの意義....というのはわしにだって理解できるが,それは元の水域の集団を保存しているというよりもその水域の集団からあるタイプを人為的に選び出して後代を採っている....ということなんじゃないかと思うところである.当然,どのような魚を残すかについて飼育者独自のバイアスがかかるわけで,所詮は野生集団とは異なる個体群が水槽に泳いでいる,と思う.
ついそう思ってしまいがちなので,わしは所詮「ゲンシャー」にはなり得ない.
さらに飼育系統についても「著名な育種家が創った魚から直系の第◎◎代目」なんてことしない.
もちろんわしだってお店などで新しい系統を買ってきたらその後代を他と混ぜないで採り続ける.それはその系統を「直系」で所有することを重視しているのではなく,そのタイプを他のいろんな系統と混ぜたらどうなるか,というのをいろいろ試して,生まれてきた魚を眺めて比べて....ってやってみるために必要だからである.保存している個体群から数尾掬い出して2グループに分け,それぞれ別のある系統とかけあわせる.そして双方の後代を別々に育てて水槽を並べて比べたりするわけである.元系統の個体群は混ぜないにもかかわらず,仔を採っているうちにだんだんわし特有の「選び」によって個体群の特徴は崩れてゆく.というよりも,そもそもわしは各系統に固有の形質を見極めて後代を選び出すという作業がヘタクソである.前にも書いたことあるが特にメス選びのセンスのなさは絶望的で,gupを始めて三十数年になるのに全然上達しない.したがって,多系統との交配が一段落したら,もう元系統を保存しておく必然性はあまりない.管理できる水槽の数も限られるしな.
しかし,わしがそれを軽視していようがいまいが,やはり「直系」を保有することの意義はいろいろな意味で大きい.学術上も社会的意義という観点からも,そして商業的に言っても「付加価値」として認めうるものである.ゆえに,それを繁殖する場合には社会的な責任のようなものが発生する.たとえば,わしは入手して保存している系統を他所に頒布してはいけない.いわゆる「ニセ物」を流すことになるからだ.まぁもらってくれるような付き合いのある人もいないが.....
たとえばこんな魚(↓)を「サンセットモザイクの直系の『後代』」とか言って頒布しようとしたら,それこそいんたーねっつで袋叩きにあうだろう.はっはっは.しかしまぁわずか三世代でここまで崩れるかね?だめねぇわしって.....

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