九州北部はちょいと早めに梅雨入り.そろそろ,gupを外に置いといても冷たくて傷害なんてことにはならない季節となった.毎年書いているようにわしは屋外飼育を勧めない(自分ではやるけどな)が,それで良い魚を育て上げている愛好家の方々もたくさんおられるので,きっとうまくやるコツがあるんだろう.
(うまくやれば)屋外飼育すると魚がすっげぇ良いんだぜぇ!という話は本当だ.
何が違うんだろう?
普通の飼育と屋外とでの違いはいろいろとあるが,「光」が違うというようなお話をうかがうことは多い.さらに,それ由来で青水になって,水質とか栄養的にもずいぶん変わってくるのかもしれない.でもそうなると,中が見えないんだよなぁ.観賞魚だけど観賞できないっつ〜のもなぁ.....
お部屋に置いた水槽の魚がどのくらいの光を受けているかな?と考えてみる
屋外の炎天下における手元の明るさを100という数値で置きかえると,曇りの日は20くらいまで落ちる.そして,屋内に入ると,晴れの日に大きな窓のある部屋に(直射ではない)間接的な光が入って明るくなった時の窓際が,だいたい10くらいかなぁ?
一方,部屋の中は暗い.
工業的な規格とか医学的な指針とかで「おすすめの明るさ」とされている光の強さについて,前述の「炎天下で100」という数字を使うとき,「望ましいお部屋の明かり」がわずか1以下なのだと聞くと,ちょっと驚く.そこで,水槽に照明を仕込むのだ.部屋の暗さに対応していた人間の目には,水槽の中がずいぶん明るく見える.
だが,自然光下の養魚池の水面はすごいもんなぁ.もちろん,自然光が強いのは晴れの日だけ,しかも正午を挟んだ数時間だけで,あとは太陽高度が低くなるわけだが,それにしても.....
さきほどの炎天下日中=100の数字を使ってみよう.蛍光ランプの光源を適合する大きさの水槽のすぐ上に設置して水面(光源から5〜10 cmくらい離れている)に光を浴びせたときの明るさは,ランプの直下でもなんとわずか「5」.もしもその通常の明るさから照明器具を2倍,3倍って増やしても,はたして屋外と比べてどのくらいの差があるものやら.ちなみに汎用の棒状のLED光源をずらりと敷き詰めた下に水槽を置く,つまり「これ以上明るくなりません!」という状態でも,20〜25.
さらに,人工光源から照射位置までの距離が離れると光強度が大きく減衰する.水自体の光透過率と合わせて考えると,水面近傍と比べてgupが泳いでいるあたりではずいぶん暗いと思われる.
ま,そんなわけで,外の魚はきわめて強い自然光に曝されており,これに対して,人工光源を使って水槽の光を増強し屋外飼育も模した光条件を作り出すのはそんなに簡単ではないのだ.逆に言えば,屋外飼育で起こる様々な現象が,おそらくたぶん,この強力な光強度に由来するだろうなぁ,ということが容易に推測できるのである.
さて,眩しい光の話をしたので,ついでに見えない光についてもちょっと触れておこう.地表に届く紫外線の多くはUV-Aで,わずかにUV-Bが混じる.ヒトにおける「日焼け」に深く関与していることもあって,紫外線の影響もきわめて興味深い.なにしろUV-Bはその量が少ないので測るのが難しい.そこで,UV-Aについて測った数字を並べてみる.
たとえば,上述のような炎天下の日中,屋外の養魚池の水面に直達するUV-Aのエネルギーを100とする.水面での反射って以外にも小さく,水(純水)はUVの(とくに波長が短い領域での)吸収が小さいので,水中をも突き進むことになる....のだが.....
UV-Aは,水に溶けている物や溶けていない濁りなどに吸収されてしまう.魚の飼育水のような富栄養化された水の中では水面下数センチくらいのところでも,あっという間に1/3くらいまで削られてしまう.とくに青水だとgupが餌取りで泳いでいるあたりでさえ1/10になってしまう.
では屋内ではどうかというと,そもそも汎用の白色LED照明にはUV成分が入ってないし.蛍光灯でも「UV入り」を謳っている製品でなければ照射光にUV-Aはほとんど入っていない.そこで,自然光のUV-Aを利用できる「窓際」について数値の例を紹介する.
ご存じのとおりガラスはUV-Aを透過しにくい(ちなみにUV-Bは透過しない).まず,間接光とともに窓に届くUV-Aは直達の1/6くらいしかない.で,窓を通って屋内に入るのだが,窓ガラスが明るさ重視で薄っぺらい場合でも,それをピッカピカに磨いてもUV-Aは1/2しか透らない.水槽のガラスはもっと分厚くて透過度が低いので,ここからさらに1/3とか1/4になる.飼育水にも(青水まではないが)UV-Aを吸収する有機物が含まれているので,水槽ガラス壁から離れて水中を泳ぐ魚の体躯に到達するUV-Aは....きっと何割減になってしまうだろう.
というわけで,UV-Aについては屋外と窓際水槽ではその強さに大きな違いがあると想定されるのであった.
なお,UV-Bは屋外でも多くはないが生物への作用はきわめて強い.屋外養魚池の水中のUV-Bはわずかながら残存するかもしれないが,屋内水槽の中はゼロなので,「ある」「ない」という大きな違いとして,関連する生物反応のある・なしのシグナルとなるかもしれない.
あ,そうそう,人工光源でUV-Aを意図的に含ませたライトを使ったらどうなるか?については,先日,身の回りの掃除していたところ,昔「トカゲ・カメの日光浴」に使っていた「バイタライト」っつ〜電球型蛍光灯が残っているのを見つけたので,ちょっと測ってみた.
この画像のようにセットして,さらにランプを下げて,水面との距離を普通の状況くらいに近づけた.すると水面における紫外線量は....上述した相対値でいえば「5〜8」.なんとまぁ「明るい間接光が窓ガラスを透過してきた窓際」と大差ないのであった.期待してたよりもずいぶん弱い.これいくつか並べても,「UV-Aが劇的に増える」っつ〜ことはなさそうだ.
さて,そんなわけで,屋外の炎天下と比べて人工的に「明るい」条件を作ることが難しい,という話を長々とやってきた.でも,安心してほしい.屋外が明るいといっても,gupの屋外飼育をしている方々はまさか炎天下にタンクを置くはずはないし,日陰の間接的な光にしても寒冷紗やヨシズをかける等により遮光をしているはずである.前述の「炎天下で100」という数字についても,実際のタンクの水面ではきっと30〜40くらいになっていると思う.
それでも屋外飼育の効果ははっきり認められる,ということだろう.
そう考えると,屋内で人工光源をがっつり並べることで,実際の屋外飼育とそれほど遜色ないくらいの強さの照射して,その効果を得ることも,決して不可能ではないのだ.
お金かけてそこまでするかどうかは
人それぞれ
だがな.
あ,養殖場のタタキ池のようなところは,さすがに100なんだろうけど.....

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