スミュール=アン=ブリオネの怪
2015/5/31 | 投稿者: ghost
ダラダラ書いているうちに5月も終わってしまうのだが、実はここからが今回の旅行記の本題となる。ホントか、おい!?

<美しい村、スミュール=アン=ブリオネ>
ブリオネ、というのはブルゴーニュの西の外れ、旧ブルボネ州の東端にあたる(結局、端っこばかりなのである)。ブルゴーニュと言えば葡萄畑のイメージかと思うが、ブリオネはどちらかというと酪農地帯で、葡萄畑はほとんど見ない。
牛のワイン煮込みはブルゴーニュ料理の定番だが、これを作るにはワインだけでなく、もちろん牛も要るワケで、牛の方は当地ブリオネの名産、ということになろうか。で、このブリオネがロマネスク教会堂の密集地帯でもあるのであって、ゆえに、ここからが今回の連載の本題なのである。

<シャトー=ドゥ=スミュール=アン=ブリオネ>
スミュール、というのは中世を通じて当地を支配した男爵家で、上掲写真に示した城郭を根拠地としていた。また、この男爵家はクリュニーIII建設の立役者となった修道士、聖ユーグを輩出したことで知られている……といったところは実はどうでもよくて、今日は、このスミュール=アン=ブリオネで遭遇した奇妙な体験について語りたい(結局、本題へ進む気はないのである)。

<本日の主人公(?)>
先のスミュール男爵の城の写真にも写っていたが、この犬が本日の主人公なのである。村の外れの駐車場に車を停めて、史跡が集まっているメインストリートに入った辺りでボクらの前に現れたこの子が、どうしたことか、常にボクらの前を歩き、ときにボクらの方を振り返るのである。まるで「ついて来い」「ちゃんとついて来てるか?」とでも言いたげに。

<お〜い、こっちだよ〜……と言いたげ>
どちらかと言えば、ボクら夫婦は犬よりは猫派なのであるが、あまりに自然に道先案内人のように振る舞われると、どうにもついて行かずにはいられなくなって、仕方なしに後を追ったのである。

<コレがお目当てなんでしょ?……と言いたげ>
ハッと気がつくと、いつの間にやら村の教会に。どうしてボクらの来訪目的が、この子にはわかってしまうのだろうか?

<サン=ティレール参事会教会>

<え……工事中!?>
せっかく案内してもらった(?)のに、生憎と教会堂は内部の補修工事中で中に入ることが叶わなかった。外見にも目立つ内陣直上の八角の鐘楼を下から見上げてみたかったのだが、こればっかりは仕方がない。特に当教会には、中に入らずとも楽しめる素晴らしい逸品があるのだから、訪問の労苦は十二分に報われるのである。

<精巧なタンパン>
よく見ると、かなり後世の補修の痕跡が見て取れるが、それでも保存状態は良好な部類で、加えて、なかなかに興味深い図案である。中央の主題が、パライユ=ル=モニアルのサクレ=クール聖堂内陣直上壁画のそれと同じ、イエスと四大福音書記者であることは、最早説明不要だろう。
面白いのはその足元、おそらくは使徒達だと思うのだが、12人ではなく10人になっていて、うち9人が着座(1人は床に直接)しているのに対し、1人だけ立っている人物がいる。この立っている人物が書物を小脇に抱えているので、このアトリビュートと他人物との区別の仕方から考えて、おそらくこれはパウロ(狭義には十二使徒に含まれない)である。
この10人の左右には、向かって左手には説教台らしきものの上に立つ人物が、右には悪魔と思われる怪物に舌を抜かれている人物がいる。前者がペトロ、後者がイスカリオテのユダだとしても、十二使徒には1人足りない。あるいは、上部の四大福音書記者にはマタイとヨハネが含まれるからそれを下部から抜いている、と考えても、今度は1人多いことになるが、着座9人のうち、床に直接座っているのが、ユダに代わって後から加えられたマティアだろうか。
気になっているのが、この(仮に)マティアの右に着座している人物の左上に天使が寄り添っていて、この人物が右手に持つ杯に酒を注いでいるように見えること。そんなエピソードが聖書にあったかな?と思いを巡らせているのであるが、本稿執筆中の今に至るも答えを見いだせていない。
ともかく、このタンパンをじっくり楽しんで、まぁ中にも入れないしもういいか、と来た道を戻ろうとしたら、件の犬が教会裏手へと続く小道の入り口に佇んでこちらをジッと見ているのである。

<よく見るとこの子、オッドアイである>
こちらが近寄るそぶりを見せると、その小道の奥へと入っていくので、やはり「ついて来い」ということらしい。半信半疑で後に続いたのだが……

<教会の陰に隠れてこんな建物があった>
垂れ幕に“アート=ロマン(ロマネスク)”の文字が見える。え?とか思っているうちに、例の子はこの建物の中に入っていってしまった。どうにも狐につままれた気分で……いや、犬なのであるが……とにかく後を追う。

<どうも、ある部屋まで我々を連れて行きたいらしい>

<オマエら、これが見たいんだろ?とドヤ顔>
で、連れて行かれた部屋にあったのがコレ。

<ブリオネ地方のロマネスク彫刻のパネル展示だった>
……いったい何なんだ、この子?
この後、冒頭に示したシャトーの裏手にまで案内された後、急に我々に対する興味を失ったのか、すれ違ったスケートボードに乗った少年について行ってしまったのだが、とにかく奇妙な体験であった。こうして自分で書きつつも、これが現実の出来事であったのか、今ひとつ自信がない。
スミュール=アン=ブリオネを訪れたことのある方で、この子に会って同様の体験をされた読者がおられたら、コメント欄にでもご一報いただきたいところ。

<美しい村、スミュール=アン=ブリオネ>
ブリオネ、というのはブルゴーニュの西の外れ、旧ブルボネ州の東端にあたる(結局、端っこばかりなのである)。ブルゴーニュと言えば葡萄畑のイメージかと思うが、ブリオネはどちらかというと酪農地帯で、葡萄畑はほとんど見ない。
牛のワイン煮込みはブルゴーニュ料理の定番だが、これを作るにはワインだけでなく、もちろん牛も要るワケで、牛の方は当地ブリオネの名産、ということになろうか。で、このブリオネがロマネスク教会堂の密集地帯でもあるのであって、ゆえに、ここからが今回の連載の本題なのである。

<シャトー=ドゥ=スミュール=アン=ブリオネ>
スミュール、というのは中世を通じて当地を支配した男爵家で、上掲写真に示した城郭を根拠地としていた。また、この男爵家はクリュニーIII建設の立役者となった修道士、聖ユーグを輩出したことで知られている……といったところは実はどうでもよくて、今日は、このスミュール=アン=ブリオネで遭遇した奇妙な体験について語りたい(結局、本題へ進む気はないのである)。

<本日の主人公(?)>
先のスミュール男爵の城の写真にも写っていたが、この犬が本日の主人公なのである。村の外れの駐車場に車を停めて、史跡が集まっているメインストリートに入った辺りでボクらの前に現れたこの子が、どうしたことか、常にボクらの前を歩き、ときにボクらの方を振り返るのである。まるで「ついて来い」「ちゃんとついて来てるか?」とでも言いたげに。

<お〜い、こっちだよ〜……と言いたげ>
どちらかと言えば、ボクら夫婦は犬よりは猫派なのであるが、あまりに自然に道先案内人のように振る舞われると、どうにもついて行かずにはいられなくなって、仕方なしに後を追ったのである。

<コレがお目当てなんでしょ?……と言いたげ>
ハッと気がつくと、いつの間にやら村の教会に。どうしてボクらの来訪目的が、この子にはわかってしまうのだろうか?

<サン=ティレール参事会教会>

<え……工事中!?>
せっかく案内してもらった(?)のに、生憎と教会堂は内部の補修工事中で中に入ることが叶わなかった。外見にも目立つ内陣直上の八角の鐘楼を下から見上げてみたかったのだが、こればっかりは仕方がない。特に当教会には、中に入らずとも楽しめる素晴らしい逸品があるのだから、訪問の労苦は十二分に報われるのである。

<精巧なタンパン>
よく見ると、かなり後世の補修の痕跡が見て取れるが、それでも保存状態は良好な部類で、加えて、なかなかに興味深い図案である。中央の主題が、パライユ=ル=モニアルのサクレ=クール聖堂内陣直上壁画のそれと同じ、イエスと四大福音書記者であることは、最早説明不要だろう。
面白いのはその足元、おそらくは使徒達だと思うのだが、12人ではなく10人になっていて、うち9人が着座(1人は床に直接)しているのに対し、1人だけ立っている人物がいる。この立っている人物が書物を小脇に抱えているので、このアトリビュートと他人物との区別の仕方から考えて、おそらくこれはパウロ(狭義には十二使徒に含まれない)である。
この10人の左右には、向かって左手には説教台らしきものの上に立つ人物が、右には悪魔と思われる怪物に舌を抜かれている人物がいる。前者がペトロ、後者がイスカリオテのユダだとしても、十二使徒には1人足りない。あるいは、上部の四大福音書記者にはマタイとヨハネが含まれるからそれを下部から抜いている、と考えても、今度は1人多いことになるが、着座9人のうち、床に直接座っているのが、ユダに代わって後から加えられたマティアだろうか。
気になっているのが、この(仮に)マティアの右に着座している人物の左上に天使が寄り添っていて、この人物が右手に持つ杯に酒を注いでいるように見えること。そんなエピソードが聖書にあったかな?と思いを巡らせているのであるが、本稿執筆中の今に至るも答えを見いだせていない。
ともかく、このタンパンをじっくり楽しんで、まぁ中にも入れないしもういいか、と来た道を戻ろうとしたら、件の犬が教会裏手へと続く小道の入り口に佇んでこちらをジッと見ているのである。

<よく見るとこの子、オッドアイである>
こちらが近寄るそぶりを見せると、その小道の奥へと入っていくので、やはり「ついて来い」ということらしい。半信半疑で後に続いたのだが……

<教会の陰に隠れてこんな建物があった>
垂れ幕に“アート=ロマン(ロマネスク)”の文字が見える。え?とか思っているうちに、例の子はこの建物の中に入っていってしまった。どうにも狐につままれた気分で……いや、犬なのであるが……とにかく後を追う。

<どうも、ある部屋まで我々を連れて行きたいらしい>

<オマエら、これが見たいんだろ?とドヤ顔>
で、連れて行かれた部屋にあったのがコレ。

<ブリオネ地方のロマネスク彫刻のパネル展示だった>
……いったい何なんだ、この子?
この後、冒頭に示したシャトーの裏手にまで案内された後、急に我々に対する興味を失ったのか、すれ違ったスケートボードに乗った少年について行ってしまったのだが、とにかく奇妙な体験であった。こうして自分で書きつつも、これが現実の出来事であったのか、今ひとつ自信がない。
スミュール=アン=ブリオネを訪れたことのある方で、この子に会って同様の体験をされた読者がおられたら、コメント欄にでもご一報いただきたいところ。