三つ子の魂、千まで

2010/10/12 | 投稿者: ghost

旅の順序とは異なるのだが、歴史に沿って中世修道院改革の第一の波発祥の地となったクリュニーから先に取り上げることにする。

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<南面する葡萄畑から望むクリュニーの街>

それは、ある意味において偶然であり、またある意味において必然であったとも言えるのかも知れない。

10世紀初頭、アキテーヌ公ギヨームは苦慮していた。自らの死後、聖人による神への執り成しを任せるに足る相手が見つからないがゆえに。無論、教会や修道院は無数にある。が、その実体は、王侯貴族との癒着によって腐敗し切っていた。彼自身もその王侯貴族の一員であるのだから、随分と身勝手な悩みもあったものだが、それはさておき。時は第一千年紀の末、最後の審判が間近に迫っているのではないか、という不安感は頂点に達しようとしていた。ともかく、信頼に足る有徳の士を見つけ出し、死後の安寧を買わなければならない。

一方に、あるべき本来の姿への回帰を切望しつつ、世俗とのしがらみから果たせずに苦悩する修道院長ベルノーがあった。当時既に換骨奪胎されて久しかった聖ベネディクトの戒律を蘇らせるには、新たな土地と、従来とは異なる秩序が求められた。しかし、修道士の熱意だけではそれは適わなかった。彼らのみでは既に張り巡らされた既得権益の網の目に立ち向かうにはあまりに脆弱である。

この二人が出会うことによって、後世“改革修道院”と呼ばれることになるクリュニー修道院が誕生することとなる。ただし、ここで言う“改革”は、今日の我々が言葉通りにイメージするそれとはいささか趣が異なることに注意が必要だ。

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<現存する往時のクリュニー修道院翼廊部>


大雑把に言えば、クリュニーの改革というのは、王侯貴族は修道院に出資することはあってもその運営に口は出さない、という取り決めであった。おそらくは、類似の試みはそれまでにもあったのだろうとは思うが、今回に限ってはローマ教皇のお墨付きまで加わり、その永続性が保証された点が当時としては画期的であったとされる。

余談になるが、その見返りにローマ教皇は、クリュニー修道院(と、後に雨後の筍のように生まれる娘院)から毎年上納金を得ることになった。名目上は、修道院側が喜んで教皇守護を勤めさせていただく権利を得た、ということになっているが、いやはや、ひどい商売もあったものである。

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<手前の建物は18世紀以降に加わったもので当時のものではない>

それもさておき。何はともあれ、家督相続の出来なかった貴族の子弟が乗り込んで来て実権を握ってしまったり、事実上税金徴収のための代官所に成り下がっていたりした腐敗修道院と比べれば、クリュニー修道院は、件のスポンサー関係が残ってはいるものの、その運営上の聖俗分離を成し遂げただけでも一大改革であったことは確かなのだ。

で、聖なる世界のみへ注力できるようになった修道士たちは何をしたのかというと、当初こそは静かな祈りの生活に没頭していたものの、その成功にあやかろうと多くの従属する修道院(200年で1,500院が傘下に加わったらしい)が生まれ、結果、またしても多大な富がそこへ流れ込むことになった。そして修道士たちはその富を使って、神の栄光を称えるべく絢爛豪華な聖堂・彫刻・絵画・典礼を整備することに熱中したのだった。

この過ぎた成功が第二の波を生む要因となり、そこへ聖ベルナールが登場することになるのだが、続きは翌日以降。

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<拡張現実による往時の姿の再生の試み>

ところで、クリュニーの数箇所(ボク自身が存在を確認したのは二箇所)に、上掲写真に示したような、液晶モニタを金属製のアームで吊るした装置が配されている。このモニタを動かすと、その角度から見た最盛期のクリュニー修道院の壮麗な姿が表示される、という仕掛けである。上写真でモニタ内の尖塔の数が目前の実物よりも随分と多いのはそれが理由。

現在のクリュニーは既に修道院として機能しておらず、ぶっちゃけ観光目的のテーマパークなので目くじらを立てる必要はないのだが、一時は極短期間で欧州全土に対する影響力を手中に収めたにもかかわらず、現代までその命脈を保つことができなかったのは、ひとえにクリュニーが分不相応なまでに華美な典礼装飾に酔い、それが結果的に、まだまだ全体としては貧しかった当時の欧州のキリスト教徒に受容されなかったゆえである。

そして今また、ボク個人としては興味深い試みではあると思いつつも、本質的には余計なものがクリュニーに増えつつあるようだ(この他、館内では3DCGの映画が上映されていたりする)。どうにも、クリュニーは創建から千年を経た今日に至っても、相変わらずのクリュニーであるらしい。



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