耳で探る

2017/7/20  23:31 | 投稿者: 時鳥

無響室、というものがある。
壁も床も天井も完全に音を吸収するようにできていて、入ると耳に綿が詰められているような心地がする。
叫んでも、反響が返ってこない。
窓がないから、照明を消せば自分の身体の範囲すら分からない暗闇に包まれる。

そういう部屋に一人で入って、音響作品を聴く。
荷物を置いて部屋に入ると、中央にある椅子に座るよう促される。
部屋の何箇所かにスピーカーがあるのが見て取れる。
着席すると、いくつか注意事項を述べて係員が出て行き、部屋が暗くなる。

暗闇と静寂。
やがて、背後に音が生まれる。
頭の後ろで何かが荒い息を吐いている。
音だけで感触はないはずなのだが、むずがゆい。
梱包財のようなものが身体の回りでがさがさと音を立てている。
まるで、引越し荷物になってトラックに積み込まれているようだ。

「See by your ears」。
あなたの耳で見なさい、という題の、サウンド・プロジェクトの作品だ。
ひとつひとつは日常にありそうな音だが、現実にはありえない組み合わせで、予想外の場所から音が湧いて出る。
気持ち悪くて不安で、とても面白い。

バーチャルリアリティって、こういう方向で使うべきなんじゃないかと思う。
現実に似せること、実体験の代替品としてのシミュレーションを目指すのだけが正解だとは思えない。
そんなことをいくら追究しても、「コピーにしてはよく出来ている」という賛辞が関の山だ。
現実にはありえないことを、現実のように感じさせることが技術には出来て、その魅力は最大限に生かしたほうがいいと思う。
実体験の紛い物ではなく、現実では体験できない別の種類の実体験。

参考:
http://www.ntticc.or.jp/ja/archive/works/our-muse/
Otocyon Megalotis #2 “Chafe”
摩擦の物理現象に フォーカスしたマクロ録音により構成
All Sound Composition, Recording, 3D Sound Programming by evala, 2014
5分55秒
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